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題目

トゥールミンの論証モデルによる教材構成の論理分析 ―小学校理科教科書を対象にして―

概要

 本研究は,小学校理科教科書を対象に,トゥールミンの論証モデルによる「教材構成の論理」の分析を試みたものである。現在使われている教科書のうち,代表的な3種の教科書全学年分を調査し,データから結論を導いて論証している記述部分を抽出したところ,全部で198の論証が特定された。このうち,論拠の記述を伴っていたものは19例(9.6%)にすぎず,ほとんどの記述は「論拠の隠された論証」であった。また,データから結論への飛躍は,「上位カテゴリーへの一般化」「現象と解釈の乖離」「モデルと実物の乖離」の3つのカテゴリーに分類された。これらの結果から,教科書の「教材構成の論理」には欠落があり,学習者がデータから結論への飛躍を埋められない場合,学習に失敗する可能性が高いことが示唆された。また,隠された論拠を「復元」するだけでは,将来学習すべき内容を現在の論証の論拠にするという逆説(教材構成における論点先取の問題)が生じることについても論じられた。さらに,授業改善の観点から,「論点先取の問題」を回避しつつ論証の信頼性を高めるための方策について提案がなされた。


第15巻

第1号
著者
工藤与志文
【キーワード】
小学校理科教科書,教材構成の論理,トゥールミン・モデル,証拠の隠された論証,論点先取の問題